「すいません…。相手にならないですよね」
「そういうことではないが」
「あ、あのっ!じゃあ今度はお兄さんのおススメの、っていうかやりたいゲーム、教えて下さいっ!私、覚えるんで!」
ずいっと身体を諒太郎の方に向けて、嘉乃はそう言った。
「……またやるのか?」
しかし、そんな嘉乃にも画面の方を見たままの諒太郎。
嘉乃は諒太郎のそんな反応に、一度は乗り出した身体を戻し、再び肩を落とした。
「あ、迷惑、ですか…」
「そういうことではない」
「ほんとですか?」
嘉乃はぱっと顔を上げて、瞳を輝かせる。
「…ああ。綺深以外と対戦するのも悪くない。…嘉乃、と言ったか」
「は、はいっ」
「携帯は持っているのか?」
「持ってます!」
すちゃっ、と差し出すと、諒太郎は初めて画面から目を離し、嘉乃を見た。
そして嘉乃の携帯を受け取ると、自分のジーンズのポケットからだしたスマホと合わせてなにやら操作をした後、携帯を返す。
「アドレスを登録しておいた。ゲームがしたくなったらいつでも連絡してくれていい。俺もきみと対戦したくなったら連絡するようにしよう」
「あ、ありがとう、ございます。お兄さん」
「……お兄さんと言うのはどうなんだろうか。普通に名前で呼んでくれて構わない」
じっと嘉乃の目を見て言う諒太郎。
嘉乃は、メガネの奥の、黒より茶色の強い瞳がとても綺麗だと思った。
画面から視線の対象が人になっても、じっと見るのは変わらないらしい諒太郎に、思わず笑顔になる。
諒太郎がやっと自分を見てくれたことが、思った以上に嬉しかった。
「は、はい。よろしくお願いします、諒太郎さん」
嘉乃の言葉に満足げに頷いて、諒太郎は再び画面に視線を移した。