「相手。綺深はお前がすると言っていたが?」


「で、でもっ、私、やり方分かんないですよ」


さっきからずっと見ているが、ゲーム初心者の嘉乃には画面で一体何が起こっていて、諒太郎が一体何を操っているのかも理解できていなかった。


「……何か分かるものはないのか?」


怒るでもなく、低い静かな声で、諒太郎はそう訊いた。


「え…っと、前にアヤとぷよならしたことあります」


以前、一度だけ綺深とやったことを思い出しながら、嘉乃はそう答える。


「ああ、あれか。綺深の奴あれだけは強いからな。じゃあ今日の対戦はそれにしよう」


「えっ…、でもお兄さん、他にやりたいのあったんじゃないですか?」


「別にいい」


一度も嘉乃の顔を見ることなく、諒太郎はソフトを替えた。


「そんなところじゃできないだろう。早くここへ来い」


「は、はい!」


諒太郎の言う、ここ、が諒太郎の隣であることを悟った嘉乃は、滅多に発揮されない瞬発力ですばやく立ち上がると、言われた通り、諒太郎の隣に腰を下ろした。


「弱いですけど、よろしくお願いします!」


「ああ」


ピコン、と可愛らしい音がして、画面は嘉乃も見たことがあるキャラクターに切り替わった。




―――――――――ピコ、ピコ、たまに、キャラクターの声。



「……」



無言で対戦しているが、嘉乃は自分のキャラクターがあっという間に負けそうになるのがとても情けなく感じていた。


綺深の代わりに相手をしているのだから、せめてもう少しゲームにならないと諒太郎も面白くないだろうとは思うのだが、どうしようもなかった。






「……本当に弱いな」


ものの3分で負けた嘉乃は、しゅん、と肩を落とす。