諒兄の部屋は、私の部屋の向かい。
つまり、部屋を出てすぐだ。
「諒兄、入るよ」
コンコン、と軽くノックをして、私は諒兄の部屋のドアを開けた。
いつもノックしたって返事なんかない。
だから、今日も返事を待たずに部屋に入った。
「ああ、おかえり」
返事の代わりに、諒兄は私にそう言った。
部屋の中には、必要以上の物は置かれていない。
机、パソコン、ベッド、本棚……、そして、テレビとゲーム機。
諒兄は、今も思った通りゲームに興じているところだった。
おかえり、なんて言ってるけど、その視線はテレビ画面から離れることは無い。
「ただいま。諒兄、紹介したい人がいるんだけど」
「紹介?」
「うん。私の親友。今までも何度か家には遊びに来てるけど、これから諒兄と会うこともあると思うし。……嘉乃」
私は、部屋の入り口に立ちっぱなしだった嘉乃に、ちょいちょい、と手招きをした。
するとハッとしたように嘉乃は私の横に並んだ。
「初めましてっ!桜木嘉乃です。よろしくお願いします!」
「ああ。ゆっくりしていくといい」
「は、はい。ありがとうございます」
……ここまで諒兄がこちらを見た回数、0回。


