私はその瞬間、ぶわっと涙腺が緩んだ。
初めて見たときは、感動はしたけど泣きはしなかったのに。
「……っ」
やばいやばい。
隣にいるのが京佑くんだってことを忘れちゃいけない。
こいつの前で泣いたりなんかするもんか。
……いや、別に京佑くんに泣かされたわけじゃないし気にしなくてもいいのかもしれないけど…。
いやっ、でもやっぱ泣き顔なんか見られたくない!
そう思って、私は必死に涙をこらえた。
このまま感情移入して映画を見ていたらこらえられなくなれそうだったから、もったいなくも関係ないことを考えるようにして。
「……!」
そんな努力をしていた時。
隣の席から、すっと腕が伸びてきて。
膝の上にあった私の右手の小指に、温かい手が触れた。
「ちょ」
「しっ」
思わず眉を顰めて隣の席、京佑くんを見ると、彼は楽しそうに笑って、唇にもう片方の手の人差し指をあてた。
……静かに、って。
そりゃあ、映画館で、しかもこんな感動の場面で、「何触ってんのよ変態!」なんて叫べないけど…。
そう思って黙ったままでいると、ただ触れるだけだった京佑くんの指が、私の薬指と小指をきゅっと握った。
私はもう一度、京佑くんの方を見た。
今度は睨むようにして。
しかし、彼は今度はまっすぐスクリーンを見たままで、私の視線に気づいているに違いないのに無視してきた。


