「じゃあ、決まりだね」
そう言って京佑くんはにっこり笑う。
私は思わず苦笑した。
……また、その笑顔。
「…何?どうかした?」
そんな私を不思議そうに見て、京佑くんはそう訊いてくる。
「ううん、なんでも。ほら、早く行こう」
京佑くんはまだどこか腑に落ちないみたいだったけど、とりあえずは私の言葉に頷いて、そして再び前を見て歩きはじめる。
放課後のこの時間は結構人通りが多いから、さっきから京佑くんは私をかばって歩いてくれてるけど、ほんと、よそ見してると人とぶつかっちゃうんだよね。
少し歩いて映画館に着くと、当たり前のように京佑くんは私の分までチケットを買ってくれた。
「はい」
「ありがとう。…待って、今お金」
「いいよ、これくらい」
私が財布からお金を出そうとした手に、京佑くんはきゅっとチケットを握らせる。
「……これくらい、私だって払えるから」
本当は、高校生のなけなしのお小遣いでは、たとえそれが野口さんのお札1枚だとしても結構大金。
だけど、私は京佑くんに対抗するようにそう言って、無理やり野口さんを押しつけていた。
「……ほんとに、いいのに。俺バイトしてるし」
「だって私、彼女でもないし」
彼女どころか、会って数日の知り合い程度だというのに。
奢ってもらうなんて嫌だ。
「……じゃあ、もらっとく」
渋々ではあったが、京佑くんは私の押しつけた野口さんを財布にしまった。
「なんか買う?ポップコーンとか」
「ううん、まだお腹すいてるわけじゃないし…、私は飲み物くらいでいいや」
「わかった。じゃあちょっとそこで待ってて。何飲む?」
「オレンジ」
了解、と笑って、京佑くんは売店に向かった。
買っている間に、売店のカウンターの上にあるメニューを見て値段を確認する。
ジュースだって奢ってもらうもんか。


