本当は。 本当は、もうとっくに、負けてる。 でも、まだ、言えないよ。 「……あ、キョウ帰ってきたみたいだね」 ガラ、という玄関のドアの開いた微かな物音に、嘉乃がそう言った。 程無くして、嘉乃の隣の部屋、京佑くんの部屋のドアの開閉の音が聞こえてくる。 ドキン、と心臓が鳴る。 隣に、いるって、考えただけで。 「……あ、電話」 プルル、とテーブルの上に置いてあったケータイが鳴った。 マナーモードにするの忘れてたみたい。 「はい、もしも…、切れた」