「樫野くん、あの」
「わかってる。言わねーよ、誰にも」
振り返りざま、樫野くんはそう言って、館内に戻っていく。
────好きになってくれて、ありがとう。
…あとね、こんなこと、私が思うなんて私ってなんてヒドイ奴だって思うけど。
……樫野くんには、美都と幸せになってほしいって、思うんだ。
樫野くんを幸せにできるのは、美都だって、本気で思うから。
樫野くんが、私の幸せを願ってくれたように、私も樫野くんの幸せを願おう。
「……私の幸せ、か…」
ぽつりと呟いた言葉は、爽やかな朝には不釣り合いな、大きな溜息に埋もれていた。
向き合う。
そう思った。
だけど、やっぱり難しいね。
自分の気持ちには向き合えても、それを伝えることはできないんだもん。
「はあぁーー」


