「綺深、行こ!」
ぐい、と手を握って引っ張ってくれる美都。
私はぺこりと橋本先生に軽く会釈をしてロビーを横切った。
誰もいない階段をのぼりきると、重そうな扉があらわれた。
何の躊躇いもなく、美都はその扉を開ける。
屋上に出ると冷たい風が吹き付けてきて、思わず身体を竦ませた。
さら、と髪が風になびく。
こっち、と引っ張られて、屋上の端に設置されたベンチに腰掛けた。
古びたそれは、ふたりで腰を下ろしたらギシ、と軋んだ音をたてた。
「……あのね。…翔也(しょうや)は、多分、分かってるよ」
ぽつりと、美都はそう言った。
────翔也。
樫野くんのことを美都がそう呼ぶ時。
それは、樫野くんをクラスメイトとか部員のひとりではなくて、大切な幼なじみとして考えている時だ。
…一緒に部活をしてきた仲間。
それくらいは、分かる。
だから今の美都は、多分誰より、樫野くんの味方だ。


