「屋上、だったか」
すたすたと歩を進めながら、ひとりごとのようにそう呟く諒太郎。
すれ違う人たちが、まるで信じられないものを見たような目で、嘉乃の手を引く諒太郎を見ている。
「りょ、諒太郎さんっ!」
「なんだ?」
前を見たまま、嘉乃に言葉を返した諒太郎は、一向に歩を緩める気配はない。
「あの!手!」
「手?」
不思議そうな顔で、漸く諒太郎は嘉乃を見た。
「もう、離しても大丈夫ですよ!」
「……いや、またさっきのようなことになると面倒だ」
嘉乃の言葉をあっさり退け、諒太郎は嘉乃の手を握る力を一層強くした。
「っ」
ただ、面倒事を避けるためだけだと分かっているのに。
その力強さに、まるで、とても大事にされているような気がして。
嘉乃は、自分の心臓が、勝手に鼓動を速めたのを感じた。


