「ねぇ、せめて名前だけでも…」


「すいません、あの、通してください」



せめて、諒太郎の隣に戻りたい。


そう思って嘉乃は立ちふさがる男たちに頼んだが、聞く耳を持ってくれなかった。


(この人たち、ナンパの仕方も知らないの!?)



断られたら潔く引く!


それが基本だ、と嘉乃は心の中で叫んだ。



しかし、そんな心の声が届くはずもない。


諒太郎はなおも話に夢中で、嘉乃の周りの集団を避けるように、だんだん遠のいていく。


本人はおそらく歩いていることは無意識なのだろうが、嘉乃にとっては離れていくその一歩が、不安を広げていた。



「ちょ、本当、困るので」


どいてください、そう言おうとしたとき。



「!?」



ビーーーッッ!という、耳を劈(つんざ)こうかというほどの大きな音が廊下に響き渡った。



「な、何!?」