1か月前の私なら。


あの、映画の帰りの私なら。



あんな気持ち悪い笑顔で、って、腹が立ったに違いない。



それなのに。



私。




……安心、してる。



京佑くんが、私じゃない誰かに、本当の笑顔を向けなかったことに、ほっとしたんだ。




「……」


私は、きゅっとポールを握りなおした。


じわ、と口の中に血の味が微かに広がって、自分が唇をかみしめていたことに気づく。




……どうしよう。



どうしよう。




────最低なのに。



最低な京佑くんを見て、安心するなんて。




……私、もしかして、あの頃より。



京佑くんのこと、好きになってるの…?