そう言って、お母さんは一度ソファから立ち上がり、カウンターテーブルの上にあったお菓子とジュースの乗ったお盆を渡してきた。
「え、まだ行ってなかったの?」
なんか、今更じゃない?
受け取りながらもそう思って言うと、お母さんは、いいから、と私の背中を押してリビングから追い出そうとする。
まったく、さっきからずいぶん力ずくなんだから。
「持っていこうとしたところであんたが帰って来たんだもの。大丈夫よ、どうせゲームしてるなら終わらないと食べられないでしょ」
「わかったから、押さないでよ」
「じゃあ、よろしくね」
「はーい」
私はお盆を持って、私と諒兄の部屋のある2階に上がった。
いったん自分の部屋に入って、自分の荷物を適当に床に置く。
そして、お母さんから頼まれたお菓子類を諒兄の部屋に届けようと、私が自室を出たところで。
私が開けるまでもなく、諒兄の部屋のドアが開いた。
ひらり、とプリーツスカートが見えて出てきたのが嘉乃だと分かった私は、
「あ、嘉乃。これお母さんから…」
と、持ってきたお盆を渡そうとした。
……が。
「あっ、ご、ごめん、アヤ。わ、私、帰るとこでっ!お邪魔しましたっ」
部屋から出てきた嘉乃は早口にそう言うと、パタパタと階段を下りていった。
私はお盆を持ったまま、廊下に立ちつくして呆然と嘉乃の後ろ姿を見送っていた。
……え。
今、嘉乃、顔真っ赤じゃなかった…?


