そこで一度言葉を切った樫野くんに、私は「何?」と首を傾げた。
すると、樫野くんの視線が、私に向けられる。
「…俺も、下の名前で呼んでもいいか?」
「……はい?」
一瞬、何を言われているのか分からず、眉をひそめてしまった。
「だから、俺も、綺深って呼んでいいかって…」
「だ、ダメ!!」
樫野くんの言葉の意味を理解した瞬間。
私は、そう叫んでいた。
自分でも驚くくらいの、大きな声で。
樫野くんも驚いたような顔で私を見ている。
「あ…、ううん、その…。だって、ずっと苗字で呼ばれてたから、そっちの方がしっくりくるもん。今更変えないでほしいし…。それにホラ、いきなりそんなふうに呼んだら、クラスとか部活の皆にもいろいろ誤解されちゃうじゃない!?」
私は、慌ててそう言った。
自分でも分かるくらい、動揺していた。
「……まあ、嫌なら、いいけど」
「だから、嫌とかじゃないって!私と噂なんかになっても樫野くん困るでしょ!それこそ彼女できなくなっちゃうよ」
保健室の先生にも誤解されてたくらいだし!
もしかして、そういうふうに見てる人は他にもいるかもしれない。
それに拍車をかけるような真似はしたくない。


