「ね、ねぇ、ちょっと樫野くん、落ち着いて!私の手、踏んじゃってるよ!」
踏んでは無いけど!
手で、だけど!
使い方間違ってるけど!
でも、感覚的には、踏んで…、いや、掴んで?
ぎゃあ、もうなんでもいいから離してください!!
「岬」
しかし私の願いは通じず、樫野くんは私の手を離してくれるどころか、さらに強い力で握ってきた。
「彼女なんかいないって、それも信じてくんねーの?」
そう言って、樫野くんは私の手を掴んだまま、ぐっと距離を詰めて私の顔を覗き込んでくる。
「……っ!」
さっきと同じ、私をまっすぐに見る真剣な目が間近に迫ってきて、私は咄嗟に身体を引いていた。
「し、信じる!彼女はいないんだね!分かったから!信じるから!」
「ホントだな?」
「ほんとほんと!もう疑わないからっ!……だからっ、ちょっと離れて!!」
ていうか離して!!
「……ん」
私が納得したことに満足したのか、樫野くんは身体を引いて、初めと同じ距離に戻ってくれた。
スッ、と、私の手に重なっていた彼の手も離れていく。
樫野くんのまさかの強硬手段に、私はどっくどっくと心臓が鳴りまくっているのを感じていた。
こんなの、反則すぎる…っ!
女慣れしてない野球一筋少年のすることじゃないと思う!
「……なぁ」
隣に座って、しかし私ではなく前を見たまま、樫野くんが口を開いた。
「な、なに?」
「……さっき、深い意味は無いって言ったよな?」
「……へ」
深い意味は無い…?
あ、京佑くんに名前呼ばれたこと?
「あ、あー、うん。言った、ね」
「…じゃあ、さ」


