「キョウが出られたらよかったんだけどねー。こういうとき違う学校だと不便だよね。学校行事っていちばん恋が盛り上がるきっかけなのに」
唇をとがらせながら、嘉乃はそう言う。
「今までそんなこと思ったことないくせに」
モテるくせに、嘉乃は全部断って私と一緒にいてくれる。
「そうだけどね!キョウもさ、どうせ大学行く気ないならうちの高校にくればよかったのに。そしたら、今までの文化祭だって体育祭だって修学旅行だって、全部一緒にできたのに」
「嘉乃、そんなに京佑くんのこと好きだったの?」
「え?…あ、違う違う。一緒に、ていうのは、アヤと一緒に、ってこと!」
私は別でいいよー、弟がモテモテなとこなんて見ても全然楽しくないし、と嘉乃は笑う。
「失礼しまーす」
ガラ、とドアを開けて、私だけ職員室に入った。
鍵返すだけだし、と思って嘉乃には職員室の外で待っていてもらう。
「先生、鍵返却にきました」
自分のデスクでコーヒーを飲んでいた担任にそう声をかけて鍵を渡す。
「ごくろうさん。これから後夜祭か?」
コト、とコーヒーを置いて訊いてきた先生に、私は「はい」と頷いた。


