「おはよー」
いつものように机の上にカバンを投げ出しながら、私は前の席に座る桜木嘉乃(さくらぎ ひろの)に声をかけた。
「……嘉乃?」
いつもなら、すぐさま振り返って「おはよっ」と元気に挨拶を返してくれるのに。
反応のない嘉乃にそう思い首をひねりつつ、私はちょん、と嘉乃の肩をつついて、
「嘉乃!」
ともう一度声をかけた。
すると、嘉乃はびくっと頭を上げ振り返ると、たった今私の存在に気がついたように目を丸くして私を見る。
「……なに、どうしたの?」
私を見つめたまま何も言わない嘉乃に、私は眉を顰めてそう訊いた。
「……どうしよう、アヤ」
やっと口を開いた嘉乃だったが、未だ視線はぼんやりと私を捉えたまま。
「どうしようっていったい何が」
「私、天才かもしれない」
「は?」
いったいどうしたんだこの子は、と怪訝な顔で自分を見る私の視線なんてお構いなしに、嘉乃は突然覚醒したように勢いよく椅子から立ち上がると、ガッ、と強く私の肩を掴んだ。
「アヤ!」
そして、キラキラした目をして私を呼ぶ。
「な、なに?」
こ、怖い。
なんか怖いよ。