どれくらいたっただろう。

病室の中が静かになり看護師たちがでてきた。

「中に…入ってください。」

晴也の担当医が言った。

私たちは病室に入った。

担当医は晴也の酸素マスクを外した。

晴也はうっすらと目を開けていた。

「さ…や……」

私は晴也に駆け寄った。

「晴也!」
「俺…幸せだった…
 沙耶と出会えて…恋ができて……」
「沙耶もだよ!」
「最後まで…守ってやれなくて…
 ごめんな…赤ちゃん…
 俺の分まで守ってやってな…」
「うん!!」
「沙耶……今まで…ありがとう…
 愛してる……」

晴也の最後の言葉だった。
最後に笑顔を見せて
晴也の命は果てた。

「午後1時21分ご臨終です。」

ここで泣いちゃだめだ。
晴也が…心配する。

「私も…愛してる。」

もうおきることのない晴也に
キスをして私は一人病室をでた。
一人トイレで泣いた。

晴也はまるで赤ちゃんを
待っていたよかのように、死んでいった。
最後まで私の心配をしてくれた。

晴也…ありがとね…。

一通り泣いた後、
赤ちゃんのいる部屋に行った。
特別に許可をもらって
赤ちゃんをつれだした。
晴也の病室に…
どうしてもつれていきたかったから。

私が病室に入ると、みんながベッドに
寄り添い泣いていた。

晴也?みんな悲しんでるよ…
ほんっとに、みんなに
愛されていたんだね…

みんなはわたしを見ると
後ろに下がってくれた。

「ありがとう…」

私は晴也の胸の上に赤ちゃんを乗せ、
晴也の腕を赤ちゃんに回した。
晴也が赤ちゃんを抱いたのは
生まれてすぐの時だけだった。

赤ちゃんはキョロキョロとしてたけど、
晴也の服をしっかりと掴んでいた。

泣かない…
パパだって…分かってるんだね…

「パパはね、これから星になるんだよ…
 だからお父さんに会うのはこれが最後…
 でも、パパはお空からちゃんと
 守ってくれるから…
 ママがちゃんと守るからね。」

わたしは赤ちゃんに言った。
分かるはず…ないか……

そのとき。

赤ちゃんが泣き出した。
晴也の指をしっかりと握って。

これは奇跡だった。
でも私は話を分かってくれたんだと思う。
晴也の…パパの死を
悲しんでくれたんだと思う。

「ありがとう…ありがとう…っ」

溢れる涙を抑えられなかった。

私は赤ちゃんを抱き取った。




外を見る。

雨が降っていた。