涙と、残り香を抱きしめて…【完】


それから一週間…


オフィスの窓から見える街路樹は
瞬くイルミネーションで彩られ
街はクリスマス色に染まっていた。


仁とは、あれからほとんど会話らしい会話をしていない。


プライベートでは全く逢ってない状態
お互いなんとなく避けてる感じだった。


ただ、クリスマス企画を多く抱えてる仁の仕事が忙しくなってるのは事実なワケで、毎日、遅くまで残業してるのは知っていた。


私が担当してるランジェリー部門は
バレンタインとホワイトデーを基準に仕事を進めてるから
カリカリしてる他の部門とはかなり温度差があった。


「部長、試着用のブラとショーツが届きました。
理子さんに付けてもらいますか?
今、社の前の喫茶店に居るそうですから」

「そうね。
じゃあ、試着室に行ってるから
理子ちゃん呼んでくれる?」

「はい」


今日は、成宮さんがデザインしたランジェリーの一回目の試着の日


私は成宮さんに声を掛け
ランジェリーの入った段ボール箱を抱え
別室の試着室に向かう。


「もうすぐクリスマスだよな。
予定は?」


私の後ろを歩く成宮さんが軽い口調で聞いてきた。


クリスマス…
去年までは、仁と過ごしてた。
でも、今年は期待薄だな…


「別に…何もないわ」

「へぇ~…不倫相手とデートしないのか?
あっ、そーか…
相手は家族と過ごすのか…」

「仕事中よ。
そんな話しはよして」


私は試着室のドアを開けながら
成宮さんを睨みつけた。


10畳ほどの試着室には、様々な衣装が所狭しと積み上げられ
雑然としてる。


部屋の隅には、申し訳なさげに置かれた長テーブルと
パイプ椅子が3つ


その一つに座り
成宮さんを見上げると
彼は何が可笑しいのか、ニヤリと笑った。