涙と、残り香を抱きしめて…【完】


静かに締まる扉


仁の足音が小さくなっていく…


追い掛けたかった。
でも、一歩踏み出す事が出来なかった。


それは、成宮さんが居たからとかじゃなく
仁がこうもあっさり引きさがり
去ってしまった事への不信感からだったのかもしれない。


私は仁にとって
それだけの女だったの?


一緒に過ごした8年間はなんだったの?


ただの欲望を満たすだけの存在で
そこに"愛"は無かったから?


だから『愛してる』ソノ言葉を口にする事はなかったの…?


呆然と立ち尽くす私の腕を
成宮さんが引っ張る。


「いつまでそんな格好で突っ立ってんだ?
風邪引くぞ」

「…成宮さん」

「んっ?」

「今日は、有難う…私、帰る」


そう言うと、仁が置いていったバックを持ち
玄関の扉を開けた。


「おい!!待て…」


成宮さんが止めるのも聞かず外に飛び出すと
逃げる様に自分の部屋に掛け込む。


そして、リビングのソファーに突っ伏し
まるで小さな子供みたいに泣くじゃくった。


はだけたタオルが肌を滑り
露わになった胸には、まだ仁の付けたキスマークがクッキリ残っていて
ソレが余計、虚しさを誘い止まらない涙…


愛していたのは、私だけ?
あの娘が言ってた通り、遊ばれてたの?


答えて…仁…


ねぇ、答えてよ…