涙と、残り香を抱きしめて…【完】


「あの人…もっと情に厚い人だと思ってたが
案外、そうでもないんだな。

星良がとんな恋愛してようが
自分には関係ないってさ…」

「…そう」


仁がそう答えたのは当然の事かもしれない。
でも、あの娘の言葉を聞いた後だからか
凄く寂しくなる。


"仁君はモデルにモテるタイプらしいし
遊びで付き合うなら、いい相手かもね…"


実際、仁はモデルにモテてた。
私だって、その中の一人…


「それより、まだ顔色悪いぞ。
あんな寒い所に居たから
体の芯まで冷え切っちまったんだな…

そうだ。風呂…入ってけよ」

「えっ?お風呂なんていいって!!
もう大丈夫だから…」

「バカ!!風邪引いたらどうする?
それに、今日中に自分の部屋へ帰れるか分かんねぇぞ

湯入れてやるから、入ってけって」

「あ…う、うん」


成宮さんって、意外と世話焼きなんだ…


お言葉に甘えてお風呂を借り
湯船で手足を伸ばすと
とってもいい気分。


「ふぅ~…温まるぅ~」


あんまり気持ち良くて
ついウトウトしてしていると
バスルームの擦りガラスを叩く音が聞こえ
ハッとして顔を上げた。


「おい!!生きてるか?」

「あ、うん」

「あんまり長風呂だから
溺れてるんじゃないかと思ったぞ」

「ごめん…ちょっと寝てたみたい…」


擦りガラスにぼんやり映る成宮さんの姿を見ただけで
湯船に首まで浸かって警戒してる私。


でもまさか、いくらなんでも
そのドアを開けるはずはないと
心のどこかで高をくくっていた。


でも…


ガラッ…