「あぁ、島津さんがマンションの玄関に居た時の事ね。
あの日は確かに仁の部屋に泊まったわ。
でも、一晩中話しをしていたの。
母親と父親として…」
「えっ?」
「恥ずかしい話しだけど、娘が手に負え無くて仁に相談してたのよ」
「娘…?あぁ!!娘って…安奈さん?」
そうなんだ…仁の娘なら、マダム凛子の娘でもあるんだ…
「そうよ。安奈が成宮の事を好きになって、彼のアパートから帰って来なくなっちゃってね。
あの子は私に反発して言う事を聞かないし、仁に相談に乗ってもらってたのよ。
安奈は仁を誰より信頼してたから…」
今、やっと分かった。
マダム凛子と安奈さんが似てるのは当たり前の事だったんだ。
だって、母子なんだから…
「はぁ~…そういう事だったんだ…」
「どう?これで納得してくれた?」
腕組みをしたマダム凛子が私の顔を覗き込む。
「あの…もう一つだけ…」
「何?まだあるの?」
「はい…。病院での話しなんですけど…
桐子先生と仁がパリに行くって話ししてましたよね?
飛行機嫌いの仁が好きな人と一緒だからパリに行くことを決心したって…」
「盗み聞きしてたのね。悪い娘」
「すみません…」
「まぁいいわ。どうせ島津さんに話さなくちゃいけない事だから…
仁にはパリに来てもらうわ。
でも、仁1人じゃない。
島津さん、あなたも一緒に来てもらう。
所属はピンク・マーベルの社員のままだけど、マダム凛子の専属モデルとしてね」
「へっ?私が…パリに?」
マダム凛子の専属モデルですって?
「そうよ。あなたが行くなら、仁も行くって言ってくれたの。
ホント、驚いたわ。
死んでも飛行機には乗らないって言ってた仁がねぇ…
愛の力は凄いって事よ」
「あぁぁ…仁…」
私は横に居た仁の手をギュッと握り、今にも泣き出しそうな顔で彼を見上げた。
「こんないい話し、星良が断るはずはないと思ったんだよ。
もう星良と離れたくないしな…仕方なく決心した」



