雨が止んだ中庭では、ショーの準備が急ピッチで行われ、既にマスコミ関係者が機材の搬入を始めたらしい…
これは、新井君からの情報。
特に何もする事がない新井君は、10分置きに状況を報告しに来てくれる。
有難いのだが…少々、ウザい…
「それでは、そろそろチャペルに移動して下さい」
「はい」
いよいよだ…
意を決して立ち上がるとチャペルに向って歩き出す。
もう不安も恐怖もない。有るのは、ステージに立てる喜びと程よい緊張感。
迷う事無くチャペルに入ると、また冷たい視線が私に集中し、辺りからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。でも、そんな事、気にもならなかった。
言いたい人には言わせておけばいい。私は私に与えられた仕事をするだけ…
すると、またあのモデルが近づいて来て、不安をあおる様な事を言ってくる。
「いい?昨日のリハとは違うのよ。大勢の人が見てるわ。
テレビや雑誌はもちろん、海外から招いたファッション業界のお偉いさん達も来てる。
あなたの失敗がショー全体の失敗に繋がるって事…忘れないでよね」
「…黙って」
「えっ?」
「聞こえなかった?黙ってって言ったのよ。
人の心配する前に、自分がどうすればそのドレスを最高に美しく表現出来るか考えたら?」
「なっ…素人のくせに偉そうな事…」
「ランウェイに立てば、素人もベテランも関係ないわ。
私は、あなた以上のパフォーマンスをする自信がある」
この時、彼女がどんな顔をしていたか…
私には興味も無かった。
気持ちを集中させ、イメージを膨らませていく。
扉の向こうから聞こえてくる音楽と大きな拍手。
プログラムでは、一番初めに成宮さんのデザインが披露される事になっていた。
この様子だと、彼のデザインしたドレスは素晴らしかったんだろう…
良かったね…成宮さん。
瞼を閉じれば、彼の笑顔が浮かんでくる。
そして、愛し合った日々が遥か遠い昔に思え懐かしささえ感じてしまう。
成宮さん、さよならの前に、私達の最後の思い出を作ろうね…
この結婚式で…



