昨日と同じ様にガウンに着替え鏡の前に座ると、昨日と同じ様にメイクが始まる。
でも、昨日はあんなにお喋りだったメイクさんが一言も喋らない。
どこか不満そうな表情。
おそらく、私のリハーサルを見て幻滅したんだろう…
いつもは一流モデルを相手にしている人だもんね。
こんな出来損ないのモデルのメイクなんかしたくないって思ってるのかもしれない。
しかし、当然ながらそこはプロ。手を抜く事無く完璧なヘアメイクだ。
そして、再びあのドレスを身に着けると、私は桐子先生の言葉を思い出し自分に暗示を掛ける様に心の中で何度も呟く。
このドレスを着こなす事が出来るのは、私だけ…
私だけなんだ…
背筋をピンと伸ばし胸を張って姿見の前に立つ。
そこには、昨日までの不安で押し潰されそうになっていた情けない私ではなく、笑みを湛え凛としたモデル…島津星良の姿が映っていた。
「へぇ~。昨日とはまるで別人ね…」
鏡越しに眼が合ったメイクさんが驚きの表情で私を見つめている。
「正直に言うとね、どうしてマダム凛子はあなたをモデルに選んだんだろうって、ずっと疑問に思ってたの。
でも今、あなたを見てその理由が分かった様な気がする。
なんだかワクワクしてきた。
本番が楽しみだわ」
「有難うございます」
笑顔でそう言ったものの、全ての不安が解消された訳ではなかった。心配なのは天候だ。
雨が止まなければ、何も始まらない。
その時、激しくドアがノックされ控室のドアが開いた。
「明日香…さん?」
「星良ちゃん!!外!!外見て!!」
興奮気味に叫んだ明日香さんが窓際に向かって突進して行くと、唖然としている私やメイクさん達を横目に勢いよくカーテンを開けた。
すると…
「わぁ…」
開け放たれた遮光カーテンの間から、温かな光が降り注ぎ室内をオレンジ色に染めていく…
「雨…止んだんだ…」
「そうよ。綺麗な夕焼けでしょ?
これでショーは開催出来るわ!!」



