涙と、残り香を抱きしめて…【完】


それは決して温かく好意的なモノではなく、中には敵意ムキ出しって感じで睨み付けてくる人も居た。


怖い…


不安で一杯だった私に、新たに恐怖という感情が加わり、入口を一歩入った所で体が固まってしまい中に入っていけない。


チャペル内では次々とステージに出て行くモデルと、出番を終え次の衣装へ着替える為、メイク室の会場に戻って行くモデルとでごった返し、華やかなステージからは想像も出来ない光景が広がっている。


まるで戦場だ…


そんな様子をぼんやり見つめていると、誰かに背中を押され危うく転びそうになる。


「ちょっと、何してんのよ!!そんな所に立ってたら中に入れないじゃない!!」

「あ…すみません」


慌てて入口から離れ頭を下げると、そのモデルは私のドレスを見て足を止めた。


「もしかして、あなたがラストの結婚式をするモデル?」

「は、はい」

「へぇ~…あなたがねぇ…」


大きな眼を更に大きく見開き、舐める様に私を上から下まで何度も眺めるモデル。


「見ない顔だけど、マダム凛子のショーは初めて?」

「…はい」

「そう…でも、今回のショーのトリを務める人だもんね。
今までどんな有名デザイナーのショーに出てきたの?」


彼女の言葉に周りのモデル達も興味深々って感じでこっちを見てる。


「あの…ショー自体、初めてで…」


消え入りそうな声でそう答えると、周りがザワめき出す。


「はぁ?ショーに出るのが初めて?」

「…はい」

「呆れた…そんなド素人を使うなんて信じらんない」


逃げ出したい気分だった。
好奇な視線を四方八方から感じる。それはまるで罪人でも見るかの様な嫌悪感たっぷりの視線。


すると、別のモデルが茶化す様に言った。


「まぁ、いいじゃない。キャリアは無くても、実力はあるかもよ。
見せてもらいましょ。彼女のステージ」

「そうね。是非、参考にさせて頂きたいたいわ」


チャペルの中に低い笑い声が響き渡り、その悪意に満ちた笑顔を見た私の意識は崩壊寸前だった。