涙と、残り香を抱きしめて…【完】


「えーっ!!そんなの聞いてないよ」

「ついさっき、マダム凛子の事務所スタッフがモデルの人達に言ってたのよ。
天候が怪しくなってきたから、用意が出来次第、リハーサルを始めるって…」

「わわわ…マジ?」

「星良ちゃんも早く行きなさい。
皆、あそこに入って行ったわよ」


明日香さんが指差したのは、以前、マダム凛子にドレスを見せてもらった披露宴会場の扉。


「分かった。じゃあ、行ってくるね」


私は明日香さんにバックを預け、急いで扉を開け中に入ると…


「わぁ…っ」


思わず私が声を上げてしまった理由…それは、前に私がここに入った時とは全く様子が変わっていたからだ。


以前、マネキンが着ていたドレスはハンガーに掛け変えられ会場の奥に、代わりに会場の中心には幾つもの鏡が置かれ、さっきのモデルさん達がメイクの真っ最中。


場の雰囲気に呑まれポカンとしていると、スタッフの男性が現れマイクを使って話し出した。
初めは英語…そして仏語。さっぱり分からない…
最後に日本語が聞こえてきてホッとする。


「そのまま作業を続けながら聞いて下さい。
ヘアメイクが済んだ人からここを出て、左側にある裏口からチャペルに移動してもらいます。

1回目の出番が終わったら、またこちらで着替えをしてもらってチャペルに戻って下さい。
何か問題があった場合は近くのスタッフに声を掛ける様に」


なるほど…と、まるで他人事の様に頷いていると、工藤さんが駆け寄って来た。


「島津さん、なにボーッとしてるの?
あなたはこっちよ!!」

「へっ?」


工藤さんに引っ張られ会場を出ると、別室に押し込まれた。


そこは、本当の花嫁控室。


「島津さんは特別待遇よ」

「特別ですか?」

「当然じゃない。今回のショーでラストを飾るトップモデルなのよ。
他のモデル達とは違う。別格なのよ」


工藤さんの別格発言を聞き、身震いがした。


凄いプレッシャーだ…