涙と、残り香を抱きしめて…【完】


工藤さんが軽く数回ノックしドアを開けると、想像以上の広い空間と豪華な調度品の数々が眼に付いた。
壁に掛けられた絵画も著名な画家のオリジナルだ…


温かみのあるはめ込み照明に照らされている廊下の先には、繊細な模様が刻まれたガラスの扉があり、工藤さんがソレを開けると微かに話し声が聞こえてきた。


マダム凛子以外に誰か居る…?


工藤さんの後に続き部屋に入ると、ガウンを羽織ったマダム凛子がキングサイズのベットに腰掛け書類らしき紙を手にソファーに座った男性と話しをしていた。


「あら、早かったのね」


私に気付いたマダム凛子が顔を上げると、それにつられる様にソファーの男性が振り向く。


「あっ…」


それは、マダム凛子とお揃いのガウンを着たリラックスした表情の仁だった。


もしかして、もう2人はここで一緒に…


動揺してる私の顔をチラッと見た仁が「なんだ…島津か…」と言ってシガーケースに手を伸ばす。その素っ気ない態度に胸がチクリと痛んだ。


歓迎されてないんだ…私…


そう思いながらも「今日は宜しくお願いします」と言って頭を下げると、マダム凛子が手に持っていた紙を私に差し出し言う。


「ラストの部分を変更するから見ておいて」

「変更ですか?」

「えぇ。初めの予定では、島津さんがランウェイを歩ききった所で新郎が待っていて、そのまま2人で芝生の上を進みバラで出来た十字架の前で結婚式を挙げる…って事になってたでしょ?」

「はい…」

「でもねぇ、結婚式をするのに近くにギャラリーが居ないっていうのは寂しい気がしてね。

急遽、芝生に円形のテーブルをセッティングして、スポンサーを始めマスコミ関係
そして重要な招待客や、あなたがお招きした人達に座ってもらう事にしたの。

なのでまずは各テーブルをまわりドレスをお披露目して、一旦、下がってもらうわ」

「えっ…結婚式はしないんですか?」

「まさか…一番の見せ場の結婚式をやらないでどうするの?」

「はあ…」


マダム凛子の考えている事がイマイチ分からず首を捻る。