早い方がいい…
そう思った私は、リビングのチェストの引き出しから便箋と封筒を取り出しローテーブルの前に座る。
そして、真っ白な封筒に迷う事無く『退職願』という文字を書き込んだ。
すると、なぜだろう…
急にペンを持つ手が震え出し、言いようのない寂しさに襲われたんだ。
ピンク・マーベルに入社して8年。その間の出来事がまるで走馬灯のように頭の中に浮かんでは消え懐かしい思い出の数々に胸がジン…と熱くなる。
ピンク・マーベルは、私の全てだった。
仁と出会い、仁と共に過ごした大切な場所。
それに会社を辞めれば、社宅であるこのマンションも出なきゃいけない。
仁に抱かれ、愛された思い出が詰まったこの部屋を…
気付けば、頬を伝い落ちた熱い雫が白い封筒の上でポタリ…ポタリ…と音をたて、文字を滲ませていた。
「しっかりしろ!!星良!!もう決めた事じゃない!!」
濡れた頬を両手で叩き、再びペンを手に持つと退職願を一気に書き上げた。
「はぁーっ…」
ソファーにもたれ掛り天井を見上げながら大きく息を吐くと、そっと眼を閉じる。
辛くないと言えば嘘になる。けど、これでいいんだ。
仁の為にも、私の為にも。
ショーが終わったら、仁にコレを渡そう。
そして、最高の笑顔で"さらなら"を言うんだ。
仁の新しい門出に涙は似合わないもの。
最後は笑って別れたい。
あなたが愛してくれた"愛しい涙"は封印するね。
そうすれば、仁の記憶に残る私は、ずっと笑っているはずだから…
それが今の私に出来る精一杯の仁へのはなむけ。
どうか、心の片隅でいいら私の笑顔を残しておいて下さい。
そして、たまに島津星良という女が居たという事を思い出して欲しい。
あなたを愛した泣き虫な女は、あなたの思い出と共に、この涙を大切に、大切に心の中にしまっておくから…
一生の宝物として…
有難う…仁…
そして、さようなら…



