私の不安な気持ちとは関係無く、ショーに向けての準備は着々と進み明日は本番さながら、本格的なリハーサルが行われる予定だ。
悪天候のせいで遅れていたステージ周辺の工事も終わり全てが順調。
ただ、新井君がマダム凛子から頼まれた生花だけが未だに入手出来るか微妙で、他のお客さんからの注文で在庫があるという大阪の生花業者に直談判すると、今朝、出掛けて行った。
ピンク・マーベルブライダル事業部は既にこれと言った仕事は無く。ここ数日はショーの裏方を務める他の部からの応援者達と個別に仕事の分担について話し合いを重ねていた。
が、それも問題無く全て終了。
「終ったね…」
明日香さんが大きく伸びをしながら哀愁漂う顔でボソッ呟く。
「そうだね…。なんだか寂しいような…だね」
ガランとしたオフィスを見渡しながら慌ただしく過ごした日々を思い浮かべ、ちょっぴりおセンチな気分に浸っていると、明日香さんが何か思い出したのか「あっ!」と小さく声を上げた。
「実はね…今朝、出勤途中で事業開発部の子と一緒になって気になる話し聞いちゃったんだよねー…」
「んっ?どんな話し?」
「それがさぁ、これからピンク・マーベルがマダム凛子のブライダルブランドを一手に扱う事になるワケじゃん。
あれだけ名の知れたデザイナーの作品を通販で販売するのはちょっと…って事になったらしいの。
で、我が社初の店舗を出す事になったらしいわ」
「ふーん…。まぁ、当然よね。
マダム凛子じゃなくても、ウエディングドレスを試着もしないで買うなんてありえないもの。
で、店舗はどこに出すの?」
「現時点では、本社のあるここ名古屋と東京。
そして…フランスのパリ」
「…パリ?」
名古屋と東京は分かる。でもなぜ、パリなの?
明日香さんの顔を見つめ無言で答えを催促すると、彼女は少し言いにくそうにため息を付く。
明日香さんの表情から察して、余りいい話しではなさそうだ…
けど、そんな顔をされたら余計に気になる。
「ねぇ、どうしてパリなワケ?」



