「娘さんが?」


会った事もない香山さんの娘さんの顔が安奈さんと重なる。


「私は警戒したわ。また15年前みたいに私達を引き離しきに来たんだと思って…
私にとって彼女は、香山を奪った憎い娘だったから…

顔では笑っていたけど、心の中では何しに来たんだ…としか思ってなかった。

そんな私に、彼女は私の知らない香山の15年間を話してくれたの。

香山はね、それはそれは、献身的に奥さんの看病をしてたそうよ。
仕事の合間に1日も欠かさず病院に行って、奥さんのお世話をしてたらしいわ。

そんなある日、深夜まで香山の部屋の電気が点いてる事に気付いた娘さんが部屋を覗くと、疲れ果て机に突っ伏して眠っている香山を見つけた。

机の上には何十冊ものファッション雑誌が積み上げられてて、私の載ってる記事や写真を切り抜きファイルにしてたそうなの。

それを見た時、怒りが込み上げてきて、そのファイルを庭先で全て燃やしてしまったそうよ」


「そんな…酷い」


「翌朝、灰になってしまったファイルを見つけた香山は、寂しそうに焼け残った雑誌の切れはしを拾い上げ肩を震わせていた…って…

でも娘さんは、その姿に益々、苛立ちを覚えたって言ってたわ。

だから、ことごとく香山に反発し、彼の嫌がる事ばかりしていたって…

その中でも、何時間も掛け慣れない料理を作って自分の帰りを待っててくれてた香山に『マズイから食べたくない』なんて言って、平気でゴミ箱に捨てた事もあったそうよ。

でも、娘さんも年頃になり恋をした。
付き合う様になって彼氏に香山の事を愚痴った時、彼に言われたそうよ。

『君は残酷な娘だね』って…『人の優しさに感謝出来ない人間は最低だ』とも…
そして『君がお父さんにしてきた事を反省するまで会わない』と言われた。

彼氏と会えなくなって、娘さんは初めて愛する人と会えない辛さや苦しみを知り、私や香山の気持ちが分かったって言ってた。

今、その彼と引き裂かれたら耐えられない。生きていけないって…

それなのに、自分の我がままで私達を別れさせ、香山に離婚を迫った母親の看病をさせてしまった事を後悔してると…

そして、自分を叱ってくれた彼氏との結婚が決まり、どうしても式を挙げる前に私に謝りたかったと言ってくれたの」