新井君が言うには…


車を降りた2人は、初めは歩きながらショーの話しをしていたらしい。
でも、マダム凛子が仁に何か耳打ちした事で、2人の足が止まった。


「…好きなのよ…仁はどうなの?」マダム凛子がそう聞くと、仁も「俺だって好きだ…」と答えたそうだ。


「なら、元に戻ってもいいじゃない」と声を荒げるマダム凛子に、仁は「今更…か?」と俯いた。


そんな仁にマダム凛子が「幸せになりたくないの?」と詰め寄ると、仁はニッコリ笑い「そう言ってもらえる俺は幸せ者だよ」と、マダム凛子を抱きしめたそうだ…


「あの2人、もう時間の問題ですね。
気持ちは通じ合ってるって感じでしたから!!」


そう言って呑気に笑う新井君の頭を明日香さんがペチンと叩き
「ほらほら、もうそんな話しはいいから仕事しなさい」と背中を押してる。


仁とマダム凛子…
やっぱり、2人の間に"愛"は残ってたんだ。


なんとも言えない複雑な気持ちで席に着くと、私のデスクの電話が鳴った。


「はい、ピンク・マーベルブライダル事業部です」

『島津か?』


仁…


「は、はい…」


電話越しに名前を呼ばれただけなのに、電流が流れたみたいにビリビリと全身が疼き、頬が熱くなる。


『突然で悪いが、ショーが終わるまで式場で寝泊まりする事になった。
社の方には戻れないから、そっちは宜しく頼む。
何か問題があったら電話してくれ。じゃあ…』

「あ、待って…」

『んっ?なんだ?』

「あの…専務に話しがあるんですが…
時間取ってもらえませんか?」


新井君が居るから、これ以上、突っ込んだ話しは出来ない。


『話し?急ぎの用か?そうじゃなかったら、すまないが後にしてくれないか?
今からミーティングなんだ』

「…そう…ですか」


結局、約束は出来ず受話器を戻す。


ミーティング…
当然、マダム凛子も一緒なんだよね…


このままじゃ、マダム凛子に仁を取られちゃう…
そう思うと居ても立っても居られず、バックを持ち立ち上がった。


その時、オフィスのドアが勢いよく開き、聞き覚えのある声がした…