涙と、残り香を抱きしめて…【完】


「き、桐子先生!!」


床に膝をつき、小刻みに震える桐子先生の体を抱き起こす。


「どうしたんですか?しっかりして下さい!!」


何をどうしていいのか分からず、我を忘れ必死で叫ぶ私に、桐子先生が何かを訴えようとしている。


でもソレは、呂律がまわらない途切れ途切れの声


「びょ…ひんへ…連れて…いっ…」

「あっ、病院ですね?今すぐ救急車を呼びますから」


かなり焦っていたせいか、携帯のボタンが上手く押せない…


何やってるの?私がしっかりしなきゃ…落ち着け!!落ち着くのよ!!


救急車が到着するまでの数十分間がとてつもなく長く感じ、桐子先生を抱きしめながら不安と恐怖で私まで震えていた。


ようやく救急隊員の人達が到着し、桐子先生は担架に乗せられ救急車に運ばれて行く。


同乗した車内で隊員の人が私に色々質問してくるが、私も取り乱していたので冷静に対応出来ない状態。


「かかり付けの病院とかありますか?」

「…分かりません」


半泣きでそう答える私の服の袖を桐子先生が引っ張る。


「…ちゅぅ…おう…びょぅい…ん」

「えっ?ちゅうおう…中央病院ですか?」


私達の会話を聞いていた運転席の隊員が無線連絡を始めた。


「中央病院、受け入れOKです。今から向かいます」


けたたましいサイレンの音を響かせ走り出す救急車の中で、私は桐子先生の手を握り、ただ祈るしかなかった。


無事病院に着いても私の不安と恐怖は消えず、ICUのドアの前でオロオロするばかり。


そうだ…香山さんに連絡しなくちゃ…
でも、携帯の番号が分からない。


どうしよう…どうしよう…


気持ちばかりが焦る。


そして、最終的に私が頼ったのは…


「…仁…助けて…」