それから二週間後の朝…
マンションを出たところで、東京の工藤さんから携帯に電話が入った。
『今日の夕方、マダム凛子が名古屋入りするわよ』
「本当ですか?」
『そうよー!!ショーまで、後20日。いよいよね!!』
朝からテンションの高い工藤さんに、私は遠慮気味に聞いてみた。
「あの…成宮さんも一緒に来るんですか?」
『あ…。成宮君は、もう少し後になりそうね…』
「そうですか…」
最近はメールしても、なかなか返信が無い。
夜中でもいいからと何度もメールしてるのに…
「彼、元気にしてますか?」
『え、えぇ…仕事も頑張ってるし…もちろん元気よ』
「すみません…。工藤さんに一つ、お願いがあるんですが…」
『お願い?何?』
「成宮さんに…その…連絡くれるように言ってもらえないでしょうか?」
ほんの少し微妙な間があり、工藤さんが低い声で聞いてきた。
『成宮君と、上手くいってないの?』
「いえ…そんな事ないです。ただ、忙しくしてるみたいだから、なかなか連絡取れなくて…」
『そういう事…分かった。伝えとくわ』
そうなんだ…。別に喧嘩したワケじゃないし、上手くいってないワケじゃない。
何も無い…でもそれが不安だった。
「あっ…急がないと…」
今日は、桐子先生のレッスンの日。
桐子先生は時間にうるさい人だから、遅刻したら大変だ。
いつもと同じ前から3番目の車両が止まるホームに立ち。いつもと同じ満員電車に揺られ、桐子先生のスクールに向かう。
何もかもが、いつも通り。
そう…このスクールのドアを開けるまでは…
「桐子先生、おはようございます!!」
明るく挨拶をしながらレッスン室に入ると、桐子先生がいつも座ってる椅子には居なくて…
「…しま…づ…」
微かに私の名を呼ぶ声が聞こえた。
そして、その声のした方向に視線を移した私が見たものは、体を痙攣(けいれん)させながら倒れている桐子先生の姿だった。



