涙と、残り香を抱きしめて…【完】


「へっ?けっ、結婚式?」


まさか、いきなりそんな事聞かれると思ってなかった私は、明らかに挙動不審


「するんだろ?成宮と結婚…」

「え、えぇ…」

「式の後は、新婚旅行とかも行くんだろうし
仕事の調整もあるから、早めにに報告してくれ」


仕事の調整…そういう事か…
仁が気にしてるのは仕事の事だけ。私の結婚なんて、これっぽっちも興味ないんだ…


「一応、7月末くらいを予定してます。ハッキリ決まったら、報告します」

「あぁ…」


なんだか…よく分かんないけど、無性にイラついた。


「専務の方こそ、どうなんですか?」

「どうって、何が?」

「結婚ですよ。するんでしょ?安奈さんと…
で、離婚は出来たんですか?」


私がそう言ったのと同時に信号が青に変わった。
でも車は、なかなか動こうとしない。


「…あの、青ですけど…」

「分かってる」


ブオーン!!


急発進した車のタコメーターの針が一気に跳ね上がり、私の体がシートに吸い付く様に押しつけられた。そして、渋滞で止まっている前方の車が眼の前に迫ってくる。


「わっ!!せ、専務!!前…」


キキキーッ!!ガクッ!!


今度は急停止した反動で、体がシートから離れフロントガラス目掛けて浮き上がった。


シートベルトをしていたから、フロントガラスに頭から突っ込む事態は避けられた。でも、私の体を支えてくれたのは、シートベルトだけじゃなかったんだ…


胸に感じる圧迫感…


それは、真っすぐ伸びた仁の右腕。


「…仁」

「驚かせて…すまない…」


ドキドキドキ…
心拍数が一気に上昇する。


多分、このドギトキは、事故寸前の恐怖からじゃない。