「そんな…工藤さんを置いて帰れませんよ」
なんて、いかにも工藤さんを気遣う素振りで、やんわり拒否したのに…
「まぁ、心配してくれるの?でも、大丈夫よ。
帰りは香山さんに送ってもらうから」
全く、気付いて貰えてない。
すると香山さんまでもが「私はかまわないよ。お二人は仕事があるだろし、気にせず帰っていいよ」なんて、ありがた迷惑な事を言ってくれる。
で、仁はと言うと…
「そうですか。実は、まだ仕事が残っているんですよ。お言葉に甘えて帰らせてもらいます」
えっ?えっ?マジ?
私の気持ちなんて完全無視!!
仁は涼しい顔をして歩き出した。
「ほら、水沢君帰っちゃうわよ。早く行きなさい」
「でも…」
「島津さんはピンク・マーベルの社員なのよ。会社に戻って、ちゃんと仕事しなさい」
「あ…はい…」
これ以上ゴネたところで事態が変わるとは思えない…
むしろ、工藤さんに変に思われそうだ。
諦めた私は工藤さんと香山さんに挨拶をし、仁の後を微妙な距離を取りながらトボトボ着いて行く。
私の事なんて気にする様子もなくズンズン歩いて行く仁。
車の前まで来て、やっと振り向いたと思ったら「なんだ…島津も帰るのか?」なんて、今更、何言ってんの?
「残った方がいいなら、残りますが…」
「別に残ってもする事無いだろ?乗ってけよ」
つっけんどんな言い方。
別になんの期待もしてないけど、私の事なんて眼中にないって感じだな…
助手席に乗り込みシートベルトを締めると、車は静かに走り出す。
これから会社までの1時間、狭いこの空間で仁と2人っきりか…
なんだか、気まずい…
仁も同じ事を考えているんだろうか?
何も話し掛けてはこない。
微かに聞こえてくるのは、仁の好きな洋楽のスローバラード
そして、車に乗って15分ほど経った頃だった。赤信号で車が止まると、仁が眼の前の信号機を見上げたままポツリと言った。
「で、結婚式の日取りは…決まったのか?」



