涙と、残り香を抱きしめて…【完】


私は仁に、どんな答えを期待していたんだろう…


仁が成宮さんと安奈さんの仲を疑って、安奈さんに愛想をつかすのを願ってたんだろうか?


「そんな事、ある訳ないだろ?」


呆れた様に笑う仁。
安奈さんの事、信じてるんだ…
やっぱり、あなたは安奈さんが好きなんだよね。
私より、あの娘が…


体の力が抜け、グラスから手が離れていく…


すると「立ってないで座れよ…」と、仁に引っ張っぱられ、彼の横に座らされた。


「俺にも一杯、飲ませてくれよ」


そう言って、私が手放したグラスに残り少ないワインを注ごうとしいる。


「あ…、新しいグラス持ってくるから…」


慌てて立ち上がろうとした私の腕を、再び仁が掴んだ。


「これでいいよ」

「でも、それは…私が使ったグラスだから…」

「あぁ、これでいい」

「イヤじゃ…ないの?」

「なんで?」

「だって…振った女が使ったグラスで飲んでも美味しくないでしょ?」


一瞬、仁の動きが止まった様な気がした。


「…そんな事無い。酒の味は変わらないさ…」と笑った仁だったけど…
それは、明らかに無理して作った様なぎこちない笑顔。


それでも、そう言ってくれた事が嬉しくて、つい言ってしまったんだ…
酔ってなかったら、絶対に聞けなかった事…


「ねぇ、仁…一つだけ、聞いていい?」

「なんだ?」

「私達が付き合ってた時、一瞬でも、私を本気で好きだって思った事…あった?」


今更、なんてバカな事聞いてるんだろう。そう思ったけど、どうしても知りたかった。


例え数分でも、数秒でも、愛された事があったのなら…それだけで救われる。
8年間、仁を愛し続けた想いが報われると思ったんだ。