涙と、残り香を抱きしめて…【完】


「もう随分前から我が社の情報が漏れてるのは把握していた。

しかし、損害が出るほどのモノでは無かったから様子を見ていたが、今回の企画に関しては、マスコミ等、他社に情報が漏れるのは極力避けたかった。

そこで俺と社長で話し合い誰が情報を漏らしているか確かめる事にしたんだよ。

まず、社の情報を容易に手に入れる事が出来る部長以上の役職の中から、可能性がある人物を数人ピックアップした。

そして俺達は、餌をまいた」

「餌?」

「そうだ。マダム凛子とのコラボ企画となれば、食いついてくるのは間違いない。

訳ありな資金提供を臭わし、ころあいを見計らって企画会議でワイロを渡すと公言する。

そして、誰がどんなリアクションを取るか確かめた。

あの時、一番に金額を聞いてきたのは、成宮部長…君だったよな?」


あ…
あれは、犯人を焙り出す為のワナだったと言うのか?


「あの時点で金額を伏せたのは、その後の行動を観察する為。
君は水面下で秘密裏に動いていたつもりだろうが、君の行動は全て把握していた。

スパイが成宮部長だと確信した俺達は、君を呼び出し、ワザとワイロの金額を教えた」

「…じゃあ、俺を昼食に呼んだのは…金額を教える為…?」

「そうだ。
俺は君が店に来る前からあそこに居た。
君が確実に金額を知ったかどうか確認する必要があったからな。

でないと、成宮部長を陰で操っている黒幕が誰か知る事が出来ない。

あんな形で君に金額を知らせたのは、偶然、聞いてしまったという方が信用性が高くなると思ったからだ」


俺は、なんてバカだったんだろう…
ハメられてるとも知らず、デタラメな金額を常務に伝えてしまった…


「案の定、次の日、ある会社からマダム凛子の事務所に資金提供をしたいと連絡が入った。

君がここに来る前に居た会社…グランからだ。

昨日のグランのプレゼンで提示された金額は、我が社が支払うと言った5千万を上回る6千万。これで全てが明らかになったという訳だ。

というのが俺達の推理だが、どこか間違っているところはあるか?」