「はぁ~…」
満員の地下鉄に揺られながら、俺は数分おきにため息を漏らした。
いつも一緒に通勤する星良の姿は…ない。
俺が星良の部屋へ迎えに行くと、既にアイツは居なかった。
俺を避けてる…
まだ怒ってるって事か?
会社に着き、星良にメールを送ってみたが、昼前になっても返事は返ってこなかった。
昼休みになったらコールセンターを覗いてみるか…と考えていると、デスクの上の内線が鳴る。
「はい。成宮です」
『お疲れ様です。成宮部長。田村です』
それは、社長秘書の田村からだった。
『社長が成宮部長と昼食をご一緒したいとおっしゃってます』
「社長が…?」
社長の誘いを断る訳にもいかず、伝えられたホテルの地下にある日本料理の店へと急ぐ。
店員に案内された個室の障子を開けようとした時、中から社長の話し声が聞こえてきた。
「田村、資金調達は済んだのか?」
「はい。その件でしたら、銀行から融資の返事を頂きました。
いつでも出せるそうです」
「おぉ!!そうか。それは良かった。
早急に頼む」
「はい…」
「しかし、5千万でマダム凛子のブランドの販売件を得られるとはな…
もう少し高くつくと思っていたよ。
彼女のブランドを扱える様になれば、5千万なんてすぐ回収出来るからな」
…5千万?
マダム凛子の事務所に支払う裏金は、5千万…
思いもよらぬ所で裏金の金額を知る事になった。
すると、俺の頭の中で星良の顔とグランの常務の顔が同時に浮かんだんだ…
どうすれぱいい…
俺は、どうすれば…
障子に手を掛けたまま、暫く放心状態だった俺。
だから、背後で人の気配がしたと思った時には、誰かに肩をガシッと掴まれていた。
「こんなとこで、何してる?」
全身の血が引いていく様な感覚と共に、心臓が張り裂けんばかりに高鳴る。
恐る恐る振り返った先に居たのは、水沢専務だった。



