メルヘン侍、時雨れて候


「はずかしい。はずかしいんだよ。じぶんがたりとか」

地響きを立てるような低い声に部屋全体が振動する。

犬は周囲をキョロキョロとし、耳をペタンとさせてうずくまった。ご隠居は一歩も動く事が出来ない。

「だまってやるしかねぇんだよ。

書くか書かないか

それを読まれるか読まれないか

そして面白いか面白くないか

それだけなんだよ

なぁ、メルヘン侍とか、こういうのそろそろやめないか?」

ご隠居の視界が、ぎゅうと狭くなった。言葉の圧力により全身の筋肉が締め付けられる。

「ふ、深い海の底にでも引きづり込まれたようじゃわい」

ご隠居は怯える犬を抱きかかえ、なんとか攻撃(言葉)を絞り出そうとした。

「お、お、お……」

だけど、うまく言葉に出せない。部屋全体がメキメキと悲鳴を上げる。重力とかそういうのがどうにかなってしまったんじゃないかと思うほどの圧力に立っていることがやっとではあるのに黒い悪魔は、さらに語る。

「野いちごとかベリーズカフェでな、ビレッジバンガードにいるようなブスを奇抜さでカバーしてるような少々病んでる人に向けて書いたところで、たいしてウケるわけがないんだよ」

「え、えらい事を言うね急に」

「お昼休みにピンクの財布を持ってカーデガンを着てぞろぞろと歩く人達を眺めながらね、なんで私はまじれないんだろうか? はぁ・・・まぁアイツらと私は違うし! なんていう人に向けたところでたいして……たいして……」

「な、なにを言ってるの? ねぇ? なんか、嫌なことあった?」

抱かれた犬も心配そうに見つめる。