ユイの実の祖父にあたるハクが、引退後のささやかな夢を託したあの店…だからあの場所と同じ所に『AGORA』を再建した。

 みんなが笑って過ごす時間――そのささやかな夢を実現する場所にするために。


「ね、どうして?」


 ユイは再び聞いてみる。

 エイジは少し、目を伏せた。


「男ってのは、助けを求めてるレディを放っておく事はできねェ生きモンなのさ…」

「助けを求めてる…私が?」


 ユイは一瞬、エイジから頭を離す。

 だがすぐに、さっきより幾分か強く頭をその胸に押しつけて。


「そうね…そうかも知れない」


 心地よい心臓の音に、目をつむる。

 最上階の窓から差し込む赤い夕日が、二人の姿をシルエットにして浮かび上がらせていた。