「七海」


諭すようにハル君があたしの名前を呼んだ。

何か泣きそう……。

……ヤバい。

このままじゃ面倒くさい女になってしまう……。

ただハル君を困らせようとしただけなのに、何であたしが困ってるの!

あたしのバカ!

今にも泣き出しそうな目でハル君を見ると、ハル君は優しく微笑んだ。


「俺は本当に好きな人としか付き合わない。
いくら可愛くてスタイル良くて……俺好みの人だったとしても。
俺は“俺好み”じゃなくて“俺の好きな人”と付き合いたいの」

「ハル君っ……」


ハル君は小さく笑うと、そのままあたしの方に手を伸ばして……あたしの涙を指で優しく拭った。


ドキ……と胸が一気に高鳴る。


「ってか……そうやって泣いてるってことは……期待してもいいってこと?」

「え……?
期待って………」


ハル君……?


「俺が本当に好きなのは……」


ハル君の目がだんだん真剣になっていく。

何……?

この状況……。


ハル君が何かを言おうと口を開きかけた……その時。



キーンコーンカーンコーン




「……チャイムだ」

「……チャイムだな」


ハル君はあたしの頬から手を離すと、机の上に置いてあった紙を片付け始めた。


「授業始まるから片付けないと……」

「あ……うん」


何だったんだろう……今の。


……ドキドキが止まらない。

どうしよう……こんなんじゃ授業どころじゃない。


心臓に悪いよ……ハル君。