ちょうど良い暇つぶしが出来て良かったと思いながら沙耶は店の中を物色し始めた。


やはり古本屋だけあってわりと綺麗なものもあれば全体的に黄ばんでいるものもある。タイトル部分がかすれて読みにくいものさえある。
小さな店内にところ狭しと並べられた本棚には、ずらりと本が収められていた。沢山の本。多分ここにある本の総数は沙耶の想像をはるかに上回るものであるに違いない。なのでジャンルも多種多様であり、普段あまり本とは縁のない沙耶でも興味をそそるものがいくつかあった。


こうして沙耶は次々と本棚に目を滑らしていき、店の中を見て回った。




暫くして、沙耶は店の奥の方の棚でとても奇妙な一冊の本を見つけた。
大きさはA5版といった、いたって普通の大きさである。しかしその本はどこにもタイトルが書かれていなかった。勿論表紙にも。だが最も奇妙なのは本が真っ黒であるという事だった。
別に汚れて黒い訳ではない。他に装飾や絵柄等が全く付いていない、本当に全体が真っ黒な本であった。