「すき」
 思わず出たその言葉は、少し掠れた。上げていた首を戻して、私はまた俯いた。
「俺も」
 里志くんは短くそう言うと、屈めていた腰を戻した。
 私達は手を離す。
「……じゃ、行ってくるよ」
「うん。頑張って」
「ありさもな」
 里志くんは何事もなかったように、昇降口を出て、部室に向かって駆けて行った。
 私はと言うと、キスの余韻にドキドキし過ぎて、少しの間その場から動けずにいた。
 初めてじゃないのに。何度もしてる筈なのに。……何度しても慣れない、ドキドキするの。
 すっかり熱くなった頬を、冷えた両手で冷やしながら、私は音楽室に向かった。