お兄ちゃんに彼女ができた。

「……ごめん、急に」
 私が身動き取れずにいると、里志くんが先に目を逸らした。
「じゃあ、な」
「待って!」
 教室を出ようとする里志くんを見て、はっと我に返った私は咄嗟に里志くんの背中に抱きついた。里志くんの背中は広くて、大きくて、制服越しに温かさが伝わってきて心地よかった。
「あの、ごめん。急でびっくりしたの。でもね」
 早口でそう言い、一旦そこで区切ってから、はっきりと自分の気持ちを口にした。
「私も秋山くんのこと、好きだから。だから、だから……」
 その続きの言葉が詰まって、それでも、私はどうしようもないくらい里志くんのことが大好きで。ただ、里志くんの背中にしがみつく両手に力を込めると、突然里志くんが振り返った。
「きゃ———」
 私は短い悲鳴を上げた。
 里志くんが、その大きな身体で私の小さい身体を、包み込む様に抱きしめた。