お兄ちゃんに彼女ができた。

「じゃあ、特大ヒント」
 里志くんが、席を立った。
「もういいよ」
 私はそっぽを向いたまま、そう言い捨てた。もう、聞きたくなかった。里志くんの、好きな女の子の話なんて———。
「今、俺の一番近くにいる女の子」

 私は振り返った。里志くんが、まっすぐ私を見ていた。顔を耳まで赤くしながら。
 私は自分の耳を疑った。だってだって、それって。
「俺、松本のことが、好き」
 大きな瞳を少し震わせながら、里志くんがはっきりとそう言った。
「え、えっと」
 私は里志くんから目を逸らそうとした。でも、逸らせなかった。里志くんの瞳がまっすぐすぎて、逸らせそうになかった。
 顔が一瞬で熱くなるのが分かった。さっきから急ぐ様に少しずつ早くなっていた鼓動は、今までに感じたことがないくらい、高く脈打っていた。