そして、戸棚の前で立ち止まった瞬間、









ふわっとなにかあたたかいものが自分を背後から包むのを感じた。





それと同時に、




「ふふ。ごめんね、寒いよね。」

という甘ったるい声が後ろから聞こえてきた。






一瞬にして、体が凍り、背筋に寒気が走る。




え?なに?おばけ?

幽霊?

もしくは、

胡桃の男の一人?




そんなことが頭を一瞬にしてよぎり、

身動きが取れない。


後ろを振り向くのが怖い。



怖すぎて大声や悲鳴も出せない。




「あれ?大丈夫?とにかくなんか服着替えたほうがいいと思うよ。」



あの甘ったるい声がまた部屋に響き、今度はくすくすと笑い声も聞こえる。



ここでようやくわれに返り、

勢いよく振り向いた。







「・・・・・っ!」




そこには、あの夜、空を飛んでいた人間と、まったく同じ服装の背の高い男子が立っていた。


髪の毛は、ふわふわのウェーブがかかっていて、色はあの時見た彼と同じように、アッシュグレーと黒が混ざった絶妙な色だ。


目は大きく、まるで女の子のような甘ったるい顔をしているが、すごく綺麗な顔立ちだった。




人間のものとは思えないほどに。






そして、あの目だ。

漆黒の、目。