「引っ越します」と言われたとき、僕はびっくりしすぎて言葉にできなかった。
電話で、さえのお母さんにこういわれた。
「さえは声優になったでしょ?それで、ここは田舎で、仕事をしているところまで時間がかかるのよ。だから、いきなりとかそういう時にすぐに来れなくてとかで大変なことになるよりは、仕事場に近い場所に引っ越したらどうかっていう話になったの。そうしたら、さえは賛成したの。私は反対したわよ?あなたが悲しむと思って。でも、さえが行きたいって必死でいってくるから・・・。ごめんなさい。」
さえのお母さんが反対をしてくれたことがなぜか嬉しかった。僕のために反対をしてくれたのだから。
しかし、さえやさえのお母さんは引っ越してしまうんだ。そう思うと正直なところ悲しかった。
ここが田舎じゃなかったら・・・なんて思ってしまう。だけど、そんなわがままを言っているわけにもいかない。
はぁ、でも、これからどうやって生きていこう。さえのいない毎日なんて辛いに決まってる。
前のさえにもどってくれよ。一緒に毎日を楽しもうよ。
こんなこと思ってたって、さえが戻ってくるわけではない。そんなこと知ってる。
こんな僕が諦めていたときのことだ。
葵が僕に
「ねぇ・・・。私さ、あなたのことがずっと・・・」
「ずっと・・・何?」
「ずっと・・・好きでした」
「え・・・?」
いきなりの告白にびっくりした。
まず、葵から告ってくるなんて思ってもいなかったし。
それから、沈黙が続いた。
これではさすがにダメかと思い、こう答えた。
「僕は、お前が知ってる通り、さえが大好きなんだ。ごめん。」
「でも、今はフリーなんでしょ・・・?」
「そうだけど、僕はさえを諦めない。いつかさえが僕のところに戻ってくることを願ってる。」
「さえちゃんが戻ってくるわけないじゃん。熱愛とかっていう記事まで新聞にのってるんだよ?」
返事ができなかった。確かに、葵の言っていることは事実だ。さえには心強すぎる彼氏がいる。熱愛報道だってされている。
「ね・・・?だから、私と付き合おうよ。その方が幸せだよ」
本当にそうなんだろうか。僕は、葵と付き合ったほうが幸せなんだろうか。
正直、葵が幸せでも、僕は幸せになれないとおもう。
だって、僕はずっとさえが大好きだったから。ずっと一緒にいたから。
それなのに、葵と付き合ったら、もし戻れるチャンスがあっても、逃してしまう。そんなの嫌だ。
「ごめん。本当にむり。僕は、さえしか愛せない。」
「じゃあ、一番じゃなくていいから、二番でいいから。」
無茶なこと言ってるなぁ、葵は。そんなの無理に決まってんじゃん。正直、葵はいい人だとは思ってるけど、恋愛対象としては見れるわけがない。
しかも、二番ってなんだよ。僕はそういうの苦手なんだよなー。
「だから、無理だ。ごめん。葵は恋愛対象として見れないんだ。」
「そう。じゃあもういいよ。話しかけないでね。」
「うん。」
なんかもうよくわかんないな、葵って・・・。
というか、最近、おかしいことしか起こらないなぁ・・・。
それよりも、さえだ。葵には失礼だけど、本当に僕はさえしか愛せないんだ。
さえ、僕のもとに戻ってきてよ。