「…杏里ちゃん……?」


繁華街の路地裏で“その店”に入ろうとした私の背後で声がした。


大げさにビクッと肩が震えたのは、その声に聞き覚えがあったから。



だけど、私はその声を無視して“その店”のドアに手を掛けた。




「待って!!杏里ちゃん…なんだよね…」



その声の主―――コウタ君に顔を見られないように俯く私の姿はなんて滑稽なんだろう…。



「人違いです」


ぶっきらぼうに呟いてそのまま一気に“その店”のドアを開いた。




「待って!!!!」



ドアが閉まる直前に聞こえたその声は、店の大音量の音楽にかき消された。