翌朝、京はいつも通りベッドから起き上がるとカーテンを開けて伸びをした。
空は青く澄んでおり、雲一つ見当たらない。
しかし京はどうも眠気が覚めない。
無理もない。
昨日の晩、いきなり一緒に住みたいと言ってきた久保の荷物を運び、しかも久保のために汚かった部屋を掃除して、更には夜食を用意。
普段あまり動かない京にとっては重労働以外の何物でもなかった。
「ったく、久保のやつ……俺の超能力は万能じゃないって何度言ったら理解するんだか……」
欠伸を噛み殺して部屋を出、フラフラの足取りでリビングへ向かう。
リビングのテーブルには既に朝食が並んでいた。
「あっ、おはようございます京様!」
紅茶の缶を開けながらリオが挨拶する。
久保の姿がない。
「おう、おはよう……久保はどこ行ったんだ?」
見れば、テーブルにも二人分の食事しかない。
「ああ、久保さんならさっき出かけていきましたよ。朝食は食べてくるからいいって」
「ふーん」
京は席につくと、スクランブルエッグにケチャップをかけながらリオを見た。
リオはいつもと変わらぬメイド姿で、いつもと変わらない朝を過ごしている。
ふと、リオと目が合った。
「京様……そんなに見つめられると照れちゃいますよ」
「いや、ごめん……人が急に消えるって、どんな感じなのか考えてた」
隣で笑っている人が、突然、なんの前触れもなく姿を消す……。
考えただけで恐ろしかった。
リオはそんな京の考えを察してか、にこりと微笑むと京の手を握った。
「安心してください、京様。僕は京様を置いて消えたりしませんから……」
「リオ……」
「だから京様、今夜こそ僕と」
リオがそう言った瞬間、ガチャリとドアが開いた。
「たっだいまー!いやー、朝の散歩は気持ちがいいねえ」
両手に紙袋を提げた久保が、足でドアを押さえながらリビングに入る。
「なんだ久保、買い物でも行ってたのか?」
京が呆れ顔で言うと、久保が大きく頷いた。
「ちょっと近くの古本屋に行ってきたんだ。もしかしたら人消師に関する資料があるかもしれないと思ってね」
久保は紙袋をソファーに置くと、古そうな本を何冊も取り出してテーブルに置いた。
「これが人消師に関係ある本なんですか?どう見ても童話にしか見えないんですが……」
リオが並べられた本をパラパラとめくりながら呟く。
確かに、どの本も外国の古い童話のようだ。