「全く、リオがいるとロクなことがねえ」
請求書をヒラヒラさせながら京が文句を言う。
「別にそれは僕のせいじゃないでしょう」
リオは自分がした事をすっかり忘れているようで、悪びれる様子もなくヘラヘラしている。
「いや、完っっ璧おまえのせいだろ!!おまえがあの女を殴らなければ俺はこんなに金請求されずに済んだんだよ!!わかるか!?」
リオの首を絞めようとする京を、久保が制止する。
「はいはい、わかったから道の真ん中で喧嘩しない!ここで殴り合いなんかしたら警察呼ばれるよ!」
久保がそう言った直後。
「あれ?ちょっとそこの三人!」
誰かが三人を呼び止めた。
振り向くと、見覚えのある警察が立っている。
冬草学園で最初に会った警官・外山だ。
「久保さん!こんな時間まで捜査お疲れ様です。そっちの二人は確か、冬草学園にいた不審者だよね?」
外山がジロリと二人を睨む。
「ふ、不審者だなんて失礼な!俺らは善良な一般市民だっつの!」
「善良な一般市民が半裸で校内に入り込んだりするかなあ」
「半裸って、あれはリオに脱がされて……」
再びリオに罪を擦り付けようとする京を、久保が「まあまあ」と止める。
どうやら久保と外山は知り合いらしい。
「この二人……京くんとリオくんはオレと同じく探偵的な仕事してるんだ。今は三人で組んで小高さん達について調べてるのさ!」
久保が胸を張って言う。
外山は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「それはそれは」と頭を下げた。
警察からの信頼が厚い久保は、京とリオにとってはかなり頼もしい存在だ。
外山は京とリオのほうを向くと、ペコリと頭を下げた。
「すみませんでした。久保さんの仲間とは知らずに失礼な事を……」
「ああ、別にいいよ。それより、こんな時間に何してるんだ?」
京が尋ねると、少し困ったような顔で外山が俯いた。
「いや、パトロールです。実は冬草学園の水野さんから連絡がありましてね……あ、水野さんというのは小高さんの奥さんで、学校では仕事の都合で旧姓の水野を名乗ってるんです」
「小高の奥さんが連絡?何のですか?」
リオが尋ねると、外山が紙を取り出した。
『次に消されるのは私』『私はもう逃げられない』などと、赤ペンで書かれている。
「え?何これ」
久保が紙を覗き込むようにして身を乗り出す。
「……水野さんからの電話の内容です。どうやら水野さんは、次に消えるのは自分だと怯えているようで……家から一歩も出られなくなってしまったようです」
外山はメモを京に渡すと、「何かわかりませんかね?」と弱々しく聞いた。