カップルの喧嘩がヒートアップする中、電車は俺の降りる駅へ到着した。


ホームに降り立ち、改札を抜けようとしたとき



「ちょっと待ってください。」


呼び止められた。



振り向けば、スーツ姿の長身の男。


若い、たぶん25歳くらいか?



例えるなら大型犬のような優しい眼差しで、俺を見ていた。



「これ、落としましたよ。」



差し出されたのは、家の鍵。


俺は何でもポケットに入れる癖がある。

定期を取り出したときに落としたのだろう。


「どうも。ありがとうございます。」



受け取ろうとした鍵を、何故だか彼はひょいと引っ込めた。



「?」
「すみません。どうやら僕、」


彼は実に忌々しく笑った。



「アナタに一目惚れしてしまいました。」
「は?」
「アナタのこと好きになっていいですか?」



コイツは何を言っているんだ。


「俺は男だ。」
「ええ、どこからどう見ても。」



この崩さない顔がまたムカつく。